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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)5404号 判決

原告

加納史郎

原告

福畑芳一

右原告ら訴訟代理人弁護士

井上英昭

大川一夫

幸長裕美

被告

総評全国一般労組全自動車教習所労働組合

右代表者執行委員長

時枝高

右訴訟代理人弁護士

井上二郎

上原康夫

竹下政行

主文

一  被告が原告らに対してなした平成二年一〇月八日付け権利停止処分はいずれも無効であることを確認する。

二  被告が原告らに対してなした平成二年七月二三日付け権利制限処分の無効確認を求める訴えをいずれも却下する。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文一項と同旨。

2  被告が原告らに対してなした平成二年七月二三日付け権利制限処分は無効であることを確認する。

3  被告は、原告らに対し、以下に例示するような行為をもって、原告らが被告組合規約に規定する組合員の権利を行使することを妨害してはならない。

(一) 被告の各種大会及び集会などについて、その開催に関する事項を原告らにことさらに告げず、又は、会場への原告らの入室を実力をもって制止するなどして、原告らの大会ないし集会への参加を妨害すること。

(二) 原告らの被告の阪急分会組合事務所など組合員の利用する設備への立入りについて、実力又は威嚇を用いるなどして、これを妨害すること。

(三) 原告らに対し、組合ビラ、機関紙、大会議案書など被告が組合員向けに発行する書面について、ことさらに配布しないこと。

(四) 原告らに対し、組合ビラの配布、組合レクリエーション活動、班活動を含む組合専門部活動などの被告組合活動について、その活動に関する事項をことさらに告げず、又は、実力ないし威嚇をもって原告らの右活動への参加を妨害すること。

(五) 原告らが被告に対して提出しようとする申込書の受取りを拒否するなどして、原告らの被告に対する意見表明の場を与えないこと。

(六) 会社に対する時間外労働等の自主協力について、被告が掲示する名簿に原告らの氏名を記載しないなどして、原告らを自主協力体制から排除すること。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の申立て

(一) 原告らの訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案に対する答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  本案前の申立ての理由

1  被告(以下「被告組合」ともいう。)が原告らに対してなした平成二年七月二三日付け権利制限処分(以下「本件権利制限処分」という。)及び平成二年一〇月八日付け権利停止処分(以下「本件権利停止処分」という。なお、右両処分を併せて、以下「本件各処分」という。)は、いずれも被告組合が労働組合として有する自治権に基づいてその範囲内で行ったものであるから、本来司法審査になじまない性質のものである。特に、本件各処分は、除名処分のように組合員としての身分を全く剥奪するものでもないので、本件各処分の適否は労働組合の自主的判断に委ねるのが相当である。

また、本件各処分は、被告組合の団結が現実に破壊され、団結の存続そのものが危ぶまれる中で、団結の維持を目的とした防御的行為としてなされたものである。したがって、このような団結破壊を目前にした緊急事態の下で、被告組合としてどのように統制権を行使して、団結維持を図るべきであったかを事後的に裁判所が判断することはできない。

2  本件権利制限処分は、その期間を「組合規約に基づく処理が確定するまでの間」と定めてされたものであり、その後、本件権利停止処分がなされたのであるから、本件権利制限処分は、本件権利停止処分によって既に解かれている。よって、本件権利制限処分の無効確認の訴えは、訴えの利益を欠く。

二  本案前の申立てに対する原告らの反論

1  法が労働組合を認めた趣旨からして労働組合の自主的な決定を尊重すべきであるのは当然であるが、そこから更に、統制処分には司法審査権が及ばないとの結論が導かれるとすれば、労働組合から組合員が不当に権利侵害を受けたとき、その救済方法が全くなくなることになって不合理であるばかりか、憲法に保障された「裁判を受ける権利」を侵害することにもなりかねない。

したがって、本件各処分について司法審査権が及ぶことは自明の理である。

2  被告の右2の主張は、本件権利停止処分が有効であることを前提にした主張であるところ、本件権利停止処分が違法、無効であるときは、本件権利制限処分は既に解かれていることにはならないのであるから、原告らには、本件権利制限処分の無効の確認を求める利益がある。

三  請求の原因

1  当事者

(一) 原告加納史郎(以下「原告加納」という。)は、平成元年七月三日、株式会社阪急自動車教習所(以下「会社」という。)に入社した後、同年一一月二〇日ころ、被告組合に加入した組合員であり、会社に勤務する被告組合の組合員で構成する被告組合阪急分会(以下「阪急分会」という。)の構成員である。

(二) 原告福畑芳一(以下「原告福畑」という。)は、昭和五七年一月二六日、会社にアルバイトとして入社した後、昭和六一年五月一六日、会社に正式採用され、同年一一月ころ、被告組合に加入して阪急分会に所属し、平成元年一〇月以降は同分会役員を務めていたものである。

(三) 被告は、昭和四〇年五月一六日、大阪府下の自動車教習所で働く労働者の個人加盟によって結成された労働組合であり、阪急分会の他、被告組合藤井寺分会、同松筒分会(以下「松筒分会」という。)、同東大阪分会及び同津守分会(以下「津守分会」という。)の五分会で構成され、平成三年三月一日付けで総評全国一般労働組合大阪地方連合会(以下「地連」という。)から除籍されるまで地連に加入していたものである。

2  原告らに対する権利制限処分及び権利停止処分

(一) 被告は、原告らに対し、平成二年七月一三日、被告組合の第二六回執行委員会において、組合規約四四条二項(以下、関係する組合規約の条項は別紙記載のとおり)に基づき、同規約四一条一号(機関決定違反)及び同条三号(統制違反)を理由として、同規約八条一号ないし四号所定の組合員の権利を制限する旨の統制処分(本件権利制限処分)をした。

(二) 被告は、原告らに対し、同年一〇月八日、被告組合の第二七回定期大会において、本件権利制限処分以降も組合規約九条一号及び二号違反を続け、分派活動を続けているとの理由で、同規約八条所定の組合員のすべての権利を停止する旨の統制処分(本件権利停止処分)をした。

3  本件各処分の無効

(一) 本件権利制限処分は、〈1〉その理由とされた組合規約所定の違反事実はなく、また、〈2〉権利制限処分の要件である組合規約四四条二項所定の「緊急に防衛処置の必要」があったとはいえず、かつ、〈3〉右処分をなすに当たって原告らに予め制裁の事由さえ告知されず、また、何らの弁明の機会さえ与えられなかったから違法・無効である。

(二) 本件権利停止処分は、〈1〉その理由とされた組合規約所定の違反事実はなく、また、〈2〉右処分をなすに当たって査問委員会の開催及び弁明の機会さえ与えられなかったから違法・無効である。

4  確認の利益

ところが、被告は、本件各処分が有効であると主張している。

5  被告による原告らの組合員としての権利行使の妨害

(一) 被告は、本件各処分に先立つ平成二年六月一二日の時点において、阪急分会役員に対し、「加納といっさい口をきくな。」との指示を行い、同年七月三日には、組合員一般に対しても同旨の指示をした。そして、同月五日には、当時の阪急分会長山根(以下「山根分会長」という。)は、原告らに対し、組合の集会や活動に一切参加させない旨明言した。これ以降、被告は、原告らの阪急分会集会場への入室を、身体を押すなどの実力を用い又は大声で威嚇して阻止した。そして、被告は、組合班活動名簿から原告らの氏名を削除し、ビラ配布や組合活動等の予定についても全く知らせず、原告らからの組合活動への参加申出を拒否し、原告らに対して被告の発行するビラを一枚も配布しないとの態度をとった。また、被告は、原告らの氏名を宿直名簿、教習相談名簿に記載しないなどして、原告らを組合の会社に対する自主協力体制から外した。

さらに、被告は、原告福畑に対し、被告が事務を負担していた共済保険手続の取扱いを拒絶するなど、組合員としての利益享受を困難にし、また、原告らが退職者の送別会へ参加することを拒否し、ひいては被告組合員らをして原告らに対する日常の挨拶すらさせない。

(二) さらに、本件処分の後においても、被告組合員らは、原告らを集団で取り囲み、原告らの身体に手をかけて怒鳴りつけるなどして威嚇し、原告らが教習中の自動車を蹴りつけるなどして、原告らの排除のためには有形力の行使をも辞さない態度を露骨にとり続けているが、被告は、組合員らの右のような行動を容認又は指示してきた。

(三) このように、被告は、本件権利停止処分を行う以前から、原告らに組合員としての権利を行使させず、組合活動から排除してきており、また、本件各処分後に至っては、原告らに対する排除行為は有形力の行使も辞さない露骨なものとなってきている。

(四) したがって、本件判決において本件各処分の無効が確認されたとしても、被告が、原告らをして組合員としての権利を事実上行使させないおそれは非常に高くかつ現実的なものであるから、原告らは、被告に対し、被告組合員としての権利行使を妨害しないよう、将来にわたる不作為を求める訴えの利益がある。

6  よって、原告らは、本件権利制限処分及び本件権利停止処分が無効であることの確認を求めるとともに、被告に対し、被告組合の組合員としての地位に基づき、被告組合が原告らの組合員としての権利行使を妨害しないことを求める。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3は争う。

3(一)  同5(一)は認める。

(二)  同5(二)は否認する。

(三)  同5(三)、(四)は争う。

五  抗弁

1  本件各処分とその背景事情

(一) 被告組合は、結成当時から地連に加盟していたものであるが、平成二年初めころから、地連委員長福田律二(以下「福田委員長」という。)の組合指導方針、闘争方針などを巡り、同委員長との間で対立が生じるようになった。そのきっかけは、福田委員長が、上部団体の委員長に過ぎないのに、被告組合の執行委員会に出席し、被告組合の執行委員を無視して自己の思うとおりに会議を進め、反対する執行委員を罵倒したり、同年の春闘の際には経営者に対してゼロ回答をするように工作し、自己と経営者との個人的な交渉によって解決しようとするなどしたことである。

右事態を憂慮した被告組合が福田委員長に指導上の問題点の改善を申し入れた。福田委員長は、右申入れを、被告組合の一部指導者による被告組合私物化の策動と決めつけ、被告組合を分裂、孤立化させる様々な策動を行ってきた。

(二) まず、福田委員長は、津守分会の大部分の組合員を脱退させ、同年六月二日、第二組合である津守自動車教習所労働組合(以下「津守労組」という。)を結成させた上、ひとり津守分会に残った山口良三に対し、集団的な恫喝をかけさせるなど陰湿な攻撃を行った。

ついで、福田委員長は、同年七月一一日の地連第三回中央委員会において、被告組合指導部が被告組合を私物化し地連の指導を拒否していること等を理由に、被告組合を権利停止処分にする旨の議題を提出したが、否決された。

その後、地連は、津守労組の地連加盟を承認し、さらに、被告組合処分のための証拠固めを行った上で、同年八月三〇日の第四回中央委員会で被告組合に対する権利停止処分を決定した。

そして、地連は、平成三年三月一日、被告組合が平成二年八月分から平成三年二月分までの組合費を納入していないことを理由に被告組合を除籍した。

(三) 被告は、右のような地連福田委員長と被告組合との間の対立・緊張関係の中で、被告組合の組織防衛のため、原告らに対し、本件各処分をしたものであって、必要やむを得ないものであった。

2  本件権利制限処分の処分事由

(一) 原告らに共通する処分事由

(1) 機関決定違反兼統制違反行為(組合規約四一条一号、三号)

イ 被告組合執行委員会は、平成二年四月二五日、地連との間の紛争状態が続いている中で、話合いでは地連との統一と団結が図れず、かつ、被告組合を分裂させられる可能性があるので、地連との今後の懇談はせず、現状を維持したまま解決を図る旨決定し、同日付けで「報告と御礼」と題する文書(以下「報告と御礼文書」という。)を地連に郵送した。

したがって、被告組合において、地連とは懇談しない、被告組合と地連との関係は現状で凍結するということが機関決定となった。

同月二六日、阪急分会でも同様の意思統一がなされたが、原告らは、その際何ら意見を述べずに承諾した。

ところが、原告加納は、同年六月、津守分会が福田委員長らの策動によって分裂した際、阪急分会役員に対し、「地連と全自教は対立するものではない。もっと話し合うべきだ。」などと発言し、津守分会の分裂を容認する言動を行ったり、同年七月二日、被告組合から「地連と全自教のどっちをとるのか。」と再び問われた際にも、「地連の一員であり、全自教阪急分会の一員です。地連と全自教は敵と味方の関係とは違うし、話合いを続けることで解決すると思っています。」と答えるなど、福田委員長の意を受けた言動を繰り返し、右執行委員会決議を遵守する意向のないことを明らかにした。

原告福畑は、同年六月一二日、阪急分会の役員会において、山根分会長から、「加納は地連にスタンスを置いている。若い奴にはもう加納と話すなと言う。話しよったら、そいつも同じや。」という話がなされた際、「地連とは一体になってやっていかねばならない。」と述べた。また、原告福畑は、同年七月五日、「福田は信用できる。」、「津守を分裂させるようなことはしない。」などと述べ、右決議に反する言動を繰り返した。

原告らの以上の言動は、被告組合執行委員会の決議に反する組合決議違反行為であり、かつ、被告組合の団結維持を困難ならしめた行為であるから団結紊乱行為・統制違反行為に該当する。

ロ 被告組合執行委員会は、同年六月二八日、地連に対し、同年七月一一日に開催予定の地連の第三回中央委員会において、被告組合に対する権利停止処分が可決されるのを阻止すべく、処分審査に際して公正な調査委員会による慎重な事実調査を求める旨の署名を提出する旨の行動提起を決議し、同年六月二九日、阪急分会でもその旨の意思一致がなされた。

被告組合の右決議は、争議行為と同様の内容の決議であるから、可決された以上、反対でも決議に従う義務がある。

ところが、原告らは、同日から同年七月一一日に至るまで、右署名活動に対する取組みを拒否した。

原告らの右行為は、被告組合執行委員会の決議に反する組合決議違反行為であり、かつ、被告組合の団結維持を困難ならしめた行為であるから団結紊乱行為・統制違反行為に該当する。

(2) 統制違反行為(組合規約四一条三号)

イ 同年七月一一日、地連中央委員会において、被告組合に対する統制処分案が審議された結果否決されたが、被告組合は、今後も福田委員長による攻撃を受ける危険があった。そのため、被告組合は、同日、緊急執行委員会を開催し、被告組合の団結維持強化方策の一環として、原告らに対し、署名活動サボタージュに対する自己批判及び今後は被告組合の方針に従う旨の誓約を求める旨決定した。

そこで、山根分会長は、原告らに対し、同月一二日、阪急分会事務所において、今後は地連と闘うという決意をして自己批判書と誓約書を書くように求めたが、原告らは、一方的に村八分にされて自己批判とは納得ができないと主張して応じなかった。

原告らの右行為は、自ら機関決定違反行為を繰り返し、団結の維持・強化のための指示にも従わず、被告組合内の不団結状態を醸成・固定化するものといえ、統制違反行為に当たる。

ロ 阪急分会は、会社との間において、会社は、習熟指導員について、阪急分会推薦の人物につき習熟指導員審査を受審させるという組合推薦制度(以下「組合推薦制度」という。)を制定していた。これは、会社からの指導員資格の取得を餌にした分裂攻撃を封じ込めることを狙いとしたものである。

阪急分会は、同年七月一〇日、原告福畑について、推薦の撤回を会社の指導者に通知し、その旨原告福畑にも通知した。ところが、原告らは、会社の山崎管理者及び森川課長に対し、原告福畑に習熟指導員の審査を受けさせるよう執拗に要求した。

原告らの右行為は、右制度を骨抜きにするものであり、被告組合の団結紊乱・統制違反に該当する行為である。

(二) 原告加納に対する固有の処分事由(統制違反行為―組合規約四一条三号)

原告加納は、同年二月一七日、被告組合の小幡稔執行委員(阪急分会所属)(以下「小幡執行委員」という。)から、被告組合のある役員が創価学会に所属し、そのことが被告組合執行委員会で問題になっているという話を聞き、同月二二日朝、地連の奥村執行委員に対し、同日夜、地連の組織化担当者会議において福田委員長に対し、それぞれ右の話を報告した(以下「小幡問題」という。)。

被告組合の中路勝利書記次長(阪急分会所属。平成二年一〇月から書記長)(以下「中路書記次長」という。)は、原告加納に対し、分会員個人が、連合体に過ぎない上部団体である地連の役員に組織原則を無視して勝手にいい加減な報告をすると組織が混乱する旨指摘して注意した。

原告加納は、同年三月二四日、阪急分会集会において、以後、分会の内部事情に関することを地連等には口外しない旨の誓約書を差し出す旨約束した。

ところが、原告加納は、被告組合役員が示した案文のうち幾つかを削除し、さらに、小幡問題の展開の行方については、自分は知らないとして「分会役員によれば」という文言を挿入するように主張して譲らなかった。

これは、誓約書を書かなければならなくなった真の原因についての言及をことさらに回避しようとしたものであり、右阪急分会集会の意思一致に反する行為であり、とりわけ、分会役員との意見や事実認識の違いを際立たせようとする行為であって、分会の統制をことさらに乱そうとする団結紊乱行為である。

3  本件権利停止処分事由

(一) 原告らに共通する処分事由

(1) 組織原則違反行為(組合規約四一条一号、三号)

イ 原告らは、本件権利制限処分後、被告組合の頭越しに地連の指導を求め、「信頼できる人」に相談するなどと言明し、被告組合の単組としての組織原則、被告組合と地連との組織上の関係を無視する行動を意図的に継続した。

ロ 原告加納は、地連が実施した事実調査に証人として出頭した際などに、地連に対し、被告組合の自己に対する本件権利制限処分などについて指導要請を行い、原告福畑も右指導要請を指示した。

ハ 原告らの右各行為は、組合規約九条一号(組合規約を守ること)違反であり、また、被告組合執行委員会が組合員に対して発した、地連との連絡、相談や指導要請を禁止する旨の指令・指示に反するから組合規約九条二号(組合のすべての決議と、これに基づく指令・指示に従うこと)に違反し、組合規約四一条一号、三号に該当する。

(2) 説明会への不参加(組合規約四一条一号、三号)

被告組合は、同年八月八日、原告らの求めに応じ、本件権利制限処分に関する説明会を開催し、原告らに対し、これに出席するよう指示したが、原告らは、正当な理由なくこれに参加しなかった。

原告らの右行為は、著しく信義に反し、かつ、組合の指示に違反するものであり、組合規約九条二号に違反する行為である。

(二) 原告加納に対する固有の処分事由(組合規約四一条一号、三号)

被告組合は、組合員に対し、同年七月二七日、福田委員長が主催する事実調査に参加しないよう決議した。また、特に、原告加納に対しては、右決議を遵守するように指示書を交付して右の旨を指示した。

ところが、原告加納は、同年八月二日、福田委員長の求めに応じ、事実調査に証人として出頭した。

右行為は、組合規約九条一号、二号に違反する行為である。

(三) 原告福畑に対する固有の処分事由(組合規約四一条一号)

原告福畑は、同年七月一六日、阪急分会の推薦のないまま、習熟指導員審査を個人的に受審した。

右行為は、組合規約九条二号に違反する行為である。

4  本件各処分の手続要件の充足

(一) 被告組合は、別紙記載のとおり組合規約四四条一項において、組合規約四三条等の手続によらない処罰手続を規定し、組合規約四四条二項において、右処罰確定までの間の権利制限等の処置の手続を規定している。

(二) 組合規約四四条一項該当事由

被告組合は、地連との緊張状態の中で、福田委員長との間の紛争についての方針を決議によって明らかにしてきたのに、原告らは、右決議を無視ないし軽視し、福田委員長と関係の深い松筒分会所属の他の三名の者たちと相互に連絡を取り合って、組織的に、右各機関決定違反行為、統制違反行為を展開した。原告らの右各行為は、組合分裂の危惧を招く不当有害な分派活動にすら該当する。

原告らの右各行為は、組合規約四四条一項所定の「組合機関の決定による反省を求めるもなお統制に従わず、複数又は集団的に反組合活動を行い、この組合の団結維持に重大な障害を与える」場合に当たる。

(三) 組合規約四四条二項該当事由

本件権利制限処分当時、地連中央委員会において、平成二年七月一一日、被告組合に対する統制処分案が福田委員長の意に反して否決され、福田委員長による巻き返しが予想されたこと、被告組合においては、福田委員長の津守分会に対する不当な介入によって被告組合の組合員が二四〇名から一九〇名に減少したことから、原告らを処分して、迅速確実な意思決定を確立し、団結の維持を図らねば、津守分会の不団結が被告組合の随所に飛び火して潰滅的な打撃を被るおそれがあった。

ところが、被告組合大会の開催日は、毎年一〇月、同中央委員会の開催日は、通常、毎年春闘前、夏季一時金要求前(五月ころ)、年によっては年末一時金闘争終結時ころであって、今後予想される原告らの統制違反行為を組合大会開催日の一〇月まで放置することは被告組合の不団結を潰滅的な程度にまで拡大する情勢にあった。

したがって、本件権利制限処分は、組合規約四四条二項所定の「中央委員会又は大会によって処罰を確定するまでの間緊急に防衛処置の必要」があったのでなされたものである。

六  抗弁に対する認否

1  抗弁1は否認ないし知らない。

2(一)(1)イ 同2(一)(1)イのうち、被告組合が報告と御礼文書を地連に送付する旨決定したこと、原告加納が被告主張の発言をしたこと及び原告福畑が六月一二日に「地連とは一体となってやっていかねばならない。」と述べたことは認め、その余は否認する。

ロ 同2(一)(1)ロは否認する。

被告組合が、同年六月二八日に署名提出行動を決議したのは事実であるが、「全組合員による」ものではなかった。

また、原告らは、右行動への取組を拒否したものではなく、保留したに過ぎない。

(2)イ 同2(一)(2)イのうち、原告らが、被告組合役員の求めた「自己批判と誓約」を拒否したことは認め、その余は否認する。

ロ 同2(一)(2)ロのうち、被告主張の組合推薦制度の趣旨は認め、その余は否認する。

いったん審査に入った以上審査の途中で取り消せないものであって、被告の主張は理由がない。

(二) 同2(二)のうち、同年三月二四日に阪急分会集会が開催されたこと、原告加納が誓約書差出しを約束したことは認め、その余は否認する。

同日の集会では、「小幡問題」等の報告があったのみであり、意思確認の場ではなく、意思一致がなされたものでない。また、原告加納は、誓約書を差し出すことを約束したが、中路書記次長の案文通りに起案して提出すると約束したわけではなく、そのような決議もない。したがって、「分会役員によれば」という文書(ママ)を挿入したからといって団結紊乱行為となるわけではない。

3(一)(1)イ 同3(一)(1)イのうち、原告らが、地連の指導を求める、「信頼のできる人」に相談すると言明したことは認め、その余は否認する。

原告らは、当時、地連と被告組合は敵と味方の関係ではないと考えていたのであり、被告主張の言明があったからといって統制処分の対象になるものではない。

ロ 同3(一)(1)ロのうち、原告加納が地連の事実調査に応じたことは認め、その余は否認する。

労働組合といえども、組合員に対しどのような指示でもできるというものではなく、被告組合が原告加納に対し、事実調査に応じるなという形で統制を及ぼし得るものではない。

ハ 同3(一)(1)ハは争う。

被告主張の決議・決定が地連との相談等を禁止する指令・指示を含んでいたというのは被告の勝手な解釈である。

(2) 同3(一)(2)のうち、原告らが説明会に参加しなかったことは認め、その余は否認する。

組合規約上「説明会」なるものの手続が不明であり、原告らの弁明を聞いて是正を図るという場でもなく、多数で威圧することが常態化していたのであるから、原告らとしては拒否する正当な理由があった。

(二) 同3(二)のうち、原告加納が事実調査に出席したことは認め、その余は争う。

事実調査への出席は、被告組合が禁止できない事柄であるから、原告加納が事実調査に出席したことは組合規約違反には当たらない。

また、右調査は、原告加納が直接かかわってきたことに関係しており、原告加納の名誉にも関係するとともに、上部団体の執行部が事実を正しく把握しているかどうかは、原告加納にとっても重要なことであるから、被告組合が原告加納に対し、右調査に出席するなと拘束できない。

(三) 同3(三)のうち、原告福畑が習熟指導員審査を受審したことは認め、その余は否認する。

原告福畑は、会社管理者を通じて受審したものであり、個人的に受審したものではない。

4(一)  同4(一)は認める。

(二)  同4(二)、(三)は否認する。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一被告の本案前の申立てに対する判断

一  まず、本案前の申立て1について検討する。

被告は、本件各処分は、いずれも被告組合が労働組合として有する自治権に基づいてその範囲内で行ったものであるから、本来司法審査になじまない性質のものであり、とりわけ、本件各処分は、除名処分のように組合員としての身分を全く剥奪するものでもないので、本件各処分の適否は労働組合の自主的判断に委ねるのが相当であって、本件各処分については、司法審査権が及ばない旨主張する。

労働組合は、その目的達成のために必要かつ合理的な範囲において、その組合員に対する統制権を有するものと解することができるところ、その統制権の行使及びこれに対する不服審査等労働組合の内部規律に関する事項は、原則としてその労働組合内部において自律的に決せられるべきであり、関係当事者はこれを尊重すべきである。しかし、労働組合の組合員は、労働組合内部において、組合員としての権利を有するものであるところ、その権利が侵害された場合には、司法上の手続によってその救済を求め得ると解するのが相当である。

そして、原告らの本訴請求は、本件各処分がいずれも処分事由がないのになされたことなどを理由にその無効確認を求めるものであるうえ、本件権利制限処分は、組合規約八条に定める組合員の権利のうち五号の「その他、組合活動に基づく利益を享受する権利」を除くすべての権利を制限するものであり、本件権利停止処分は、右権利の行使をすべて停止するものであって、これにより侵害される原告らの権利・利益は重大と認められるから、本件各処分につき司法審査権が及ばないとする被告の主張は失当である。

なお、被告は、本件各処分が被告組合の団結が現実に破壊され、団結の存続そのものが危ぶまれる中で、団結の維持を目的とした防御的行為としてなされたものであるとして、右各処分には司法審査権が及ばないとも主張するが、仮に右のような事情の下に右各処分がなされたとしても、右各処分に司法審査権が及ばないといえないことは右説示から明らかである。

二  次に、本案前の申立て2について検討する。

証拠(〈証拠・人証略〉)によると、組合規約四四条一、二項が、別紙記載のとおり組合員に対する通常の処罰手続規定の例外としての手続規定を定めていること(この点は当事者間に争いがない。)、本件権利制限処分は、組合規約四四条二項にのっとり、中央委員会又は組合大会によって処罰を確定するまでの間、緊急に防衛処置の必要があるとして行われたものであること、本件権利制限処分通知書(〈証拠略〉)には、処分期間として、「組合規約に基づく処理が確定するまでの間」と明記されていること、その後、被告は、原告らに対し、平成二年一〇月八日開催の被告組合大会において、本件権利停止処分を決定し、そのころ、原告らにその旨を通知したことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によると、本件権利制限処分は、組合規約四四条二項にのっとり、被告組合の中央委員会又は組合大会において、原告らに対する処分がなされるまでの間を処罰の有効期間と定めてなされたものであり、その後に開催された被告組合の大会において、原告らに対する本件権利停止処分が決定されたのであるから、これをもって本件権利制限処分は、その有効期間を満了して失効したものということができる。

そして、一般に、本件権利制限処分という過去の法律関係についての確認の利益は、右過去の法律関係を確定することが現在の紛争の処理に有効である場合に認められると解するのが相当であるところ、本件権利制限処分は、既にその効力を失い、現に被告においても右事実を争うものでない以上、本件訴訟において、本件権利制限処分の効力の有無を即時に確定する利益はなく、原告らの組合員としての現在の権利関係を決するためには、右処分後になされた本件権利停止処分の効力の有無を確定するをもって足るというべきである。

もっとも、原告らは、本件権利停止処分が違法、無効の場合、本件権利制限処分が継続するから、本件権利制限処分の無効確認を求める訴えの利益がある旨主張する。

確かに、組合規約四四条二項によると、暫定的な措置としての権利制限処分等は「中央委員会または大会によって処罰を確定するまでの間」行うことができると規定され、また、原告らに対する本件権利制限処分の処分期間が「組合規約に基づく処理が確定するまで」とされていることからすると、本件権利停止処分が司法審査を含む不服申立手続によって無効であるとされるなど、右処分が「確定」しなかった場合には、本件権利制限処分が続行していると解する余地がないといえなくはない。しかし、組合規約四四条一項は、別紙記載のとおり同条項所定の要件を満たす場合には「中央委員会または大会によって・・・処罰を確定する」旨規定していること、被告組合員は、組合の処分に対して抗弁する権利を有する旨規定しているものの、組合規約にはその手続を規定しておらず(〈証拠略〉)、右の事実からすると、組合規約上、組合員に対する処罰が不服申立手続を経て「確定」する旨の方式を採用していないと推認できること、以上の事情を総合すると、組合規約四四条二項及び本件権利制限処分通知書記載の「確定」とは、右権利制限処分後に中央委員会又は組合大会において、原告らに対する処罰が決定されることをいうものと解するのが相当である。

そうすると、本件権利制限処分の後本件権利停止処分が被告組合大会によって決定された以上、これをもって本件権利制限処分は終了し、たとえ本件権利停止処分が違法、無効と確認されたとしても、その効力が復活するものではないと解する。

よって、原告らの本件権利制限処分無効確認の訴えは、確認の利益を欠く不適法な訴えとして却下を免れない。

第二本案に対する判断

一  請求原因1、2は当事者間に争いがなく、同4は当裁判所に顕著である。(本件権利停止処分無効確認請求について)

二  本件権利停止処分に至る経緯

被告組合が報告と御礼文書を地連に送付する旨決定したこと、原告加納が抗弁2(一)(1)イ記載の被告主張の発言をしたこと、原告福畑が平成二年六月一二日に「地連とは一体となってやっていかねばならない。」と述べたこと、原告らが、被告組合役員の求めた「自己批判と誓約」を拒否したこと(抗弁2(一)(2)イ)、抗弁2(一)(2)ロ記載の組合推薦制度の趣旨、同年三月二四日に阪急分会集会が開催されたこと、原告加納が誓約書差出しを約束したこと、原告らが、地連の指導を求める、「信頼できる人」に相談すると言明したこと(抗弁3(一)(1)イ)、原告加納が地連の事実調査に応じたこと(抗弁3(一)(1)ロ)、原告らが説明会に参加しなかったこと(抗弁3(一)(2))、原告福畑が習熟指導員審査を受審したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右の事実に証拠(〈証拠・人証略〉)を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  地連の福田委員長は、平成元年一〇月ころから、被告組合に対し、直接に関与し指導するようになった。これに対し、被告組合執行部には福田委員長の右指導及びその方法等に関し、必ずしも全面的に賛同している訳ではない者もいた。

2  平成二年二月一七日、原告加納は、被告組合の小幡執行委員から「誰にも言ってはいかんぞ、杉岡は創価学会の会員だ、全自教の執行委員会で詰めている。杉岡が学会員であることは大変なことだと思う。」旨聞き、同月二二日、ビラまきの際、大阪豊島労働組合委員長でもある地連の奥村執行委員に伝えたところ、同人から福田委員長に伝わった。そして、原告加納は、同日夜、地連組織化担当者会議に出席した際、福田委員長からも聞かれ、同様に答えた。翌二三日、福田委員長は、阪急分会に赴き、中路書記次長に対し、被告組合杉岡書記長が学会員かどうかを質した。

福田委員長の右対応に苦慮した中路書記次長は、同日午後五時一〇分からの休憩時間に原告加納に対し、原告加納の右発言に関し、福田委員長に言ったのかどうか質すとともに、同委員長が心配して阪急分会に来たこと、右のようなことは言う必要がない旨注意した。

3  同年三月初め、原告加納は、奥村執行委員に対し、右中路書記次長から言われたことを伝えたところ、同月一六日、中路書記次長は、福田委員長から加納とのパイプを繋いでおけとの発言を受け、同人及び被告組合又は阪急分会が福田委員長から信頼されていないのではないかとの危惧を抱くに至った。

そこで、中路書記次長は、同月一七日開催の阪急分会役員会において、福田委員長の被告組合に対する指導の改善を求めること、原告加納を使って、スパイみたいなことをさせるのはやめて欲しいことなどを地連福田委員長に申入れにいくことの了解を求め、その旨了承された。

同月一九日、中路書記次長及び山根分会長は、地連に右の事項を申し入れるべく赴いた。その際、福田委員長は、中路書記次長らに対し、杉岡が創価学会員でないことを確認できたこと、阪急分会には隠しごとがあるのではないかとの同分会に対し不信感をもっているかのような発言をした。

4  同月二一日、被告組合は、執行委員会において、「お願い」文書(〈証拠略〉)(以下「お願い文書」という。)を地連に送付することを決定し、翌二二日、右文書を地連に郵送した。右文書は、被告組合第一〇回執行委員会から地連執行委員会宛のもので、被告組合の自主的、自覚的な体制強化と組合民主主義の徹底をはかるため、地連に指導上配慮してほしい点として、〈1〉被告組合の機関会議をはじめ諸会議については、被告組合の規約に基づく招集権者を通じて開催するよう指導してください、〈2〉被告組合の組合員個人への指導、接触は、組織原則にのっとり行うように配慮してください、〈3〉被告組合関係の職場経営者との接触、交渉については、少なくとも分会三役に知らせ、その必要性を説明し、原則的に単独で行わないで下さい、〈4〉被告組合及び分会幹部、組合員を個人的に罵倒したり、辱めるようなことは慎んで下さい、など五項目を記載している。

他方、同日開催の阪急分会代議員会において、中路書記次長は、右お願い文書を出すことを決定したこと、原告加納の前記発言が意図的でないなら、分会内部のことを口外しないことの誓約書を書かせて、そのままにする旨を報告し、了承された。

右報告を受けて、同月二三日、山根分会長は、原告加納に対し、分会内部の個人の発言を今後口外しないとの誓約書を出すよう求めたところ、原告加納は、そのころ、これを了承する旨答えた。

翌二四日、阪急分会集会が開かれ、中路書記次長は、同月一九日に地連に行った経過、年末からの福田委員長の動き、被告組合の中央委員会の招集のあり方や福田委員長の被告組合執行委員会での発言、右お願い文書を出すに至った経過及び原告加納の小幡問題における発言を説明した後、原告加納に右誓約書を書いてもらうこと、原告加納が被告組合のことを口外しないと言っているので、皆さんも信用して、団結してほしい旨報告したところ、右分会集会に出席していた者は右報告を了承したが、原告加納が書くこととなった誓約書の内容等については決議されることはなかった。また、原告加納も右集会に出席していたが、発言することはなかった。

その後、原告加納は、右誓約書を作成することなく経過していたところ、同年四月二四日、中路書記次長は、原告加納に対し、右誓約書の案文(〈証拠略〉)(以下「中路案」という。)を示し、誓約書を書くよう求めた。なお、右中路案は、被告組合役員会で論議して作成したものではなく、中路書記次長が独自に起案したものである。原告加納は、右案文を持ち帰り読んだところ、一部に自らが考えていた点と異なる記載があったので、これを訂正変更した誓約書(〈証拠略〉)を作成し、同月二七日、山根分会長に提出した。原告加納が中路案を訂正した点は、事実と異なると考えた事項と原告加納が直接体験したことではない事項を「阪急分会役員によれば」と伝聞表現にしたことであった。その後、原告加納は、同年五月七日から九日にかけて、山根分会長、中路書記次長から右誓約書を中路案に従って書き直すよう求められたが、応じなかった。

5  他方、同年四月五日、地連執行委員会は、右お願い文書に関し懇談会(地連執行委員会と被告組合執行委員会の合同委員会)を開催することを決定し、同月二四日、右懇談会が開催された。右懇談会において、被告組合から地連側にお願い文書に関する報告と意見が述べられ、次回(同年五月一五日か一七日に開催)の懇談会において、地連側の意見を伝えることを決定して終了した。

被告組合は、右懇談会終了後今後の対応を検討し、同年四月二五日、被告組合執行委員会は、地連に対し、報告と御礼文書(〈証拠略〉)を作成して郵送する旨決定し、その旨実行された。なお、右執行委員会において、報告と御礼文書を地連に郵送する以上に、更なる地連との話合いを求める発言を組合員がすること自体を禁止する旨の決議をすることはなかった。右報告と御礼文書には、被告組合の確認事項の報告として、〈1〉お願い文書の趣旨、内容についての説明は四月二四日に行ったこと、〈2〉被告組合は、本件の事実関係について、いかなる回答(謝罪・取消し・自己批判・誓約等)も地連に対して求めていないこと、〈3〉個人の名誉、人権に関わるとした問題についても、それぞれの当該の個人は組織的処理を優先することを了解していること、〈4〉被告組合は、「現状維持の状態」で組織としても個人としても一切本件について不満、怒りなどを含む感情的問題を残存させていないこと、〈5〉被告組合は、基本的にも日常的にも従来通り地連方針に基づき活動すること、〈6〉一般的には地連通報により活動し、活動報告は指示により執行委員会が誠実に行うこと、など八項目を記載し、なお書きにおいて、四月二四日の話合いの場であった「再度の話合い」の提案については、問題の拡大、組織混乱の助長・利用の危惧があると判断するので辞退する旨、また、お願い文書と四月二四日の事実関係の説明の中に、事実に反する問題や誤解、判断の誤り等被告組合に欠陥、不充分さ、不正な部分があれば地連執行委員会に指摘してもらえば真摯に受け止め被告組合機関で調査検討し是正・改善・謝罪したい旨を記載している。

同月二六日、阪急分会集会が開かれ、右懇談会についての報告がなされたが、報告と御礼文書についての報告はなされなかった。ちなみに、原告らが報告と御礼文書のことを知ったのは、同年五月一〇日に開催された全体集会においてであった。

6  同年六月一日、津守分会において、多数の被告組合員が脱退し、翌二日、津守労組を結成した。なお、右津守労組は、同年七月二六日、地連に加盟した。

同年六月四日、阪急分会において、中路書記次長から組合員に対し、「権力の介入があって、津守は経営者に身を売った、地連が関係している、福田に依拠している。」旨の津守分会の動きについて報告がなされた。そして、同月七日、阪急分会集会が開催され、同集会終了後、山根分会長は、原告加納に対し、地連を取るか、分会を取るかとの問いを発した。これに対し、原告加納は、地連は上部団体であり、どちらを取るかといわれても困る、地連と全自教は対立するものではない、もっと話し合うべきだと答えた。原告加納が右のような発言をしたのは、地連と被告組合間には話合いの余地があると考えていたからであった。さらに、同年七月二日、山根分会長から「地連と全自教のどっちをとるのか。」と再び問われた際にも、「地連の一員であり、全自教阪急分会の一員です。地連と全自教は敵と味方の関係とは違うし、話合いを続けることで解決すると思っています。」と答えた。

同年六月一二日、阪急分会役員会において、山根分会長が地連からの脱退は既定の事実である旨発言するとともに、「加納は地連にスタンスを置いている。若い奴にはもう加納と話すなという。話しよったら、そいつも同じや。」と発言し、他方、原告福畑は、地連と被告組合は一体となってやっていかないといけないと発言した。

7  同月二七日、地連第一九回執行委員会が開催され、福田委員長の他、被告組合の溝端委員長(以下「溝端委員長」という。)、中路書記次長及び和田阪急分会書記長の三名が参加した。右執行委員会において、被告組合指導部が被告組合を私物化し、地連の指導を拒否していることを理由に、被告組合に対する権利停止処分を地連中央委員会を開催して提起する旨可決された。そこで、右溝端委員長らは、同月二八日、被告組合執行委員会を開催し、地連中央委員会議長に対し、第三者的で公平な調査委員会による慎重な事実調査の上での処分決定を求めること等を内容とする申入れを被告組合の組合員の連名で求める旨決定し、これを受けて、翌二九日、被告組合阪急分会において、分会集会が開かれ、右申入書への署名活動を行う旨確認されたが、全組合員に対し、右署名を義務づける旨が決議されたこともその旨の報告もなかった。その後、原告らは、右申入書への署名を求められたが、原告加納においては、山根分会長らから会社を辞めてしまえなどと言われていたことへの反発もあり、また、原告福畑においては、調査委員会を作ることや個人加盟の単一労組で、組合への処分が全組合員に対する処分との記載のあることに疑問があるとしてそれぞれ右署名を留保した。なお、右署名活動の過程において、山根分会長は、被告組合の求めに応じない原告らに対し、福田委員長を憎めるかどうか、地連と闘えるかどうかが問題であるなどと発言し、あるいは原告福畑に対し、地連と闘えるかどうか返事することを求めることがあり、また、同年七月五日には、被告組合員から要請があったことを理由に、被告組合執行委員会の指示に基づいて、阪急分会役員会は、原告加納らを分会の集会に入れないことを決定し、あるいは被告組合の組合員は、原告らと挨拶をしない、声をかけないなどという行動を取った。

そして、同月一一日、地連第三回中央委員会において、被告組合に対する権利停止処分案が提出されたが、賛成九票、反対五票、保留七票で賛成多数には至らず、右議案は否決された。

翌一二日、被告組合緊急執行委員会が開催され、原告らに対し、今後は地連と闘うとの決意を示す自己批判書と誓約書の提出を求める旨の決議がなされ、同日、原告らに対し、右決議がなされたことを伝えるとともに、右自己批判書と誓約書の提出を求めたが、原告加納は、「全自教の方針は守るが、今回の件は理解できない点もあるし、自分の件でも小幡執行委員と食い違いがあるから個人署名をするのを留保する。」と述べ、原告福畑は、「自己批判するようなことはしていない。加納さんと一言も口を利くなと言われたので、それはおかしいと意見を言っただけだ。」と述べて、原告らは右自己批判書及び誓約書の提出を拒否した。

8  自動車教習所において、交通違反を犯した運転初心者を指導するためには習熟指導員の資格を有することが必要であるところ、会社が習熟指導員資格の付与を利用して組合を分断することを防ぐため、阪急分会は、会社との間において、阪急分会の推薦する者に、右習熟指導員資格取得試験の受験を行わせるという制度(組合推薦制度)を制定していた。阪急分会は、会社に対し、平成二年五月ころ、原告福畑を習熟指導員として推薦し、会社は、右推薦を受けて、公安委員会に対し、原告福畑を習熟指導員受審者として申請した。原告福畑は、そのころから受審の準備に入り、同年六月中に数回の講習を受け、七月二日に学科審査を受けて合格した。阪急分会は、同月一〇日、原告福畑に対する習熟指導員の右推薦を取り消す旨の決定をし、その旨、会社の指導者に理由を示すことなく通告したが、原告福畑には直接通告しなかった。原告福畑は、同月一二日、会社の森川課長から何ら理由を示されることなく右推薦取消の事実を知らされ、同日、山根分会長に抗議し、翌一三日、原告福畑が会社に対し、練習を続けさせてほしい旨申し入れたところ、会社は、組合との間で決まったことなので練習をさせることはできない旨答え、原告福畑に教習生を割り当てたため、原告福畑は、実技審査向けの練習をすることができなかった。同月一四日、原告福畑は、会社の山崎隆三副所長及び森川課長から、実技審査受審を断念するように説得され、業務として実技審査を受審させることはできない旨告げられたが、審査もすでに進んでいるし、個人の資格に関わる問題だから、有給休暇を取って受審する旨答えた。同月一六日、原告福畑は、有給休暇を取得して実技審査を受審した。

9  同月一三日、被告組合は、原告らに対し、本件権利制限処分(〈証拠略〉)をした。これに対し、原告福畑は、同月一七日、志波阪急分会副分会長に処分理由等について説明を求め、原告らは、被告組合に対し、同月二〇日、具体的処分理由の全部を明らかにすることを求める質問書(〈証拠略〉)を提出した。同月二三日、中路書記次長は、原告らに対し、「一度しかいわん、よく聞いておけ。」と告げて、処分理由として五点を伝えた。右の告知は、約三〇名の組合員が原告らを取り囲み、口々に「反省せよ、何をいうとるんじゃ。」などと言う中で、午後七時一五分から一五ないし二〇分間行われた。原告らは、その後、同月二七日付け書面(〈証拠略〉)で被告組合に対し、右処分の撤回とその回答を書面によって同年八月三日までにするよう申し入れた。しかし、被告組合は、右の申入れに右期日までに応じなかったので、原告らは、同月四日付けで、被告組合及び阪急分会に対し、原告らに対する処分が撤回されない以上、「上部団体である地連に事実関係を述べ、指導を求めざるを得ません。」「現実に処分され、その処分が撤回されない為、組織原則に従い上部団体への指導を求めざるを得ません。又、自分の良心に従い、自分の信頼できる人に相談することは当然であるからです。」などと記載した通知書(〈証拠略〉)を送付し、同日、業務終了後に地連に赴き、事情を告げて被告組合に対する指導を求めた。これに対し、被告組合は、同月七日、原告らに対し、同月八日午後四時から説明会を開催するからこれに出席することを指示する書面(〈証拠略〉)を交付して、右説明会への出席を指示した。これに対し、原告らは、既に処分が出た後であり、右説明会に出席しても本件権利制限処分が撤回される見込みはなく、また、権利制限処分により抗弁権も保障されないし、たとえ出席しても、参加者からつるし上げられることが予想されることを理由に、出席しない旨を文書(〈証拠略〉)及び口頭で通告して出席しなかった。そこで、被告組合は、原告らに対し、同月一〇日付け書面で、本件権利制限処分の理由を記載した指示書(〈証拠略〉)を交付した。

10  他方、原告加納は、地連から、同月二日開催の地連執行委員会において行われる小幡問題についての事実調査に証人として出席することを求められた。これに対し、原告加納は、自らが右問題に関し、嘘を言っているとされているなど名誉に係わる事項であるので出席する旨回答したが、同年七月三一日、中路書記次長は、原告加納に対し、右事実調査に応じないよう求めるとともに、その旨の被告組合執行委員会の決定があり、これを遵守するようにと記載した被告組合名義の指示書(〈証拠略〉)を交付した。しかし、原告加納は、中路書記次長に対し、右のような事情から右事実調査に応じる旨答え、被告組合の指示に従わず、右事実調査に応じた。そして、原告加納は、右事実調査において、小幡問題について説明するとともに、本件権利制限処分についての質問にも応じたが、右処分問題について、地連から被告組合への指導を要請するなどという発言はしなかった。

11  地連は、同年八月三〇日、第四回中央委員会において、被告組合を権利停止処分にする旨の処分を決定した。なお、その後、地連は、平成三年三月一日、被告組合を組合費不納付を理由に除籍した。

他方、被告組合は、同年一〇月八日、被告組合の定期大会において、本件権利停止処分を決定し、そのころ、原告らに通知した。

三  本件権利制限処分の処分事由の存否について

前記第一、二の認定事実によると、本件権利制限処分は、原告らに対する本件権利停止処分をなすまでの間の緊急に防衛処置の必要があるとして暫定的になされた処分であり、本件権利停止処分は、本件権利制限処分以降も組合規約九条一号、二号違反を続け、分派活動を続けているとの理由でなされたものである(争いがない。)ことからすると、本件権利停止処分の効力を検討するためには、本件権利制限処分の効力を検討する必要があるので、まず、本件権利制限処分の処分事由の存否について判断する。

1  抗弁2、(一)、(1)の処分事由(機関決定違反兼統制違反行為―組合規約四一条一号、三号)について

(一) 被告は、報告と御礼文書を地連に郵送し、もって被告組合において、地連とは懇談しない、被告組合と地連との関係は現状で凍結するということが機関決定となったのに、原告らは、これに反する言動をなした旨主張する(右処分事由イ)。

右認定の事実によると、被告組合執行委員会は、平成二年四月二五日、地連に対し、報告と御礼文書を発送することを決議したが、それ以上に右執行委員会において、更なる地連との話合いを求める発言を組合員がすること自体を禁止する旨の決議はしなかったこと、報告と御礼文書には、同月二四日開催の地連と被告組合との懇談会において提案された次回の懇談会の開催を問題の拡大等の危惧を理由に辞退しているに過ぎず、今後も地連の方針に基づき活動する旨、また、被告組合側の誤りや不十分な点の指摘があれば真摯に受けとめ是正、謝罪等する旨記載があること、文章全体における言葉遣い、言い回し等において地連に悪印象を抱かれないよう相当な配慮をしていることが窺えることが認められ、右の事実からすると、被告組合における右決議は、お願い文書等を原因として、地連との関係が険悪になりつつあることを憂慮した被告組合執行委員会が、地連との関係をこれ以上悪化させることを防ぐために、報告と御礼文書を送付することを内容とするものに過ぎないということができる。被告組合が問題にする原告加納の発言は、「地連と全自教は対立するものではない。もっと話合うべきだ。」、「地連の一員であり、全自教阪急分会の一員です。地連と全自教は敵と味方の関係とは違うし、話し合いを続けることで解決すると思っています。」というものであり、また、原告福畑の発言は、「地連とは一体になってやっていかなければならない。」、「福田は信用できる。」、「津守を分裂させるようなことはしない。」というものに過ぎないのであって、いずれも、右決議の内容に反対あるいは抵触するものではないがら、原告らの右発言をもって、右決議に反する行為とは到底認めることはできない。

また、右認定の被告組合と地連との関係に徴しても、原告らの右各発言をもって被告組合の団結維持を困難ならしめる行為とはいえないから、被告組合の団結紊乱行為・統制違反行為と認めることは到底できない。

したがって、原告らの右各発言をもって、決議違反行為、統制違反行為と認めることはできない。

(二) 被告は、被告組合執行委員会が同年六月二八日、地連に対し、被告組合に対する権利停止処分審査に際して公正な調査委員会による慎重な事実調査を求める旨の署名を提出する旨の行動提起を決議し、翌二九日、阪急分会でもその旨の意思一致がなされたのに、原告らは、同日から同年七月一一日に至るまで、右署名活動に対する取組みを拒否したことは、団結紊乱行為・統制違反行為に該当する旨主張する(右処分事由イ)。

右認定の事実によると、平成二年六月二七日、地連第一九回執行委員会が開催され、福田委員長の他、被告組合の溝端委員長、中路書記次長及び和田阪急分会書記長の三名が参加したところ、被告組合に対する権利停止処分を地連中央委員会を開催して提起する旨可決されたため、右溝端委員長らは、平成二年六月二八日、被告組合執行委員会を開催し、地連中央委員会議長に対し、第三者的で公平な調査委員会による慎重な事実調査の上での処分決定を求めること等を内容とする申入れを被告組合の組合員の連名で求める旨決定したこと、これを受けて、翌二九日、被告組合阪急分会においても分会集会が開かれ、右申入書への署名活動を行う旨確認されたが、全組合員に対し、右署名を義務づける旨が決議されたこともその旨の報告もなかったこと、原告らは、右申入書への署名を留保したことが認められる。

右の事実から明らかなように、右執行委員会及び阪急分会集会における各決議が、被告組合の全組合員に対し、右申入書への署名の協力を求めることを超えて、署名することを義務づけるものであったと認めることはできない。

もっとも、(人証略)は、右各決議は組合員全員に対し署名を義務づけるものであった旨証言するが、他方、同証人は、右各決議が正式な審議事項であったか、単なる報告事項にすぎなかったのかを手続上区別することはできず、議事録も残っていない旨証言すること及び原告加納が右分会集会における決議は、全員に署名義務を求めるものではなかった旨の供述をすることに徴し、信用することができない。他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

被告は、右決議は争議行為と同様の内容の決議であるから、可決された以上、反対の者でもその性質上当然に決議に従う義務を負う旨主張するが、右の事実によると、被告組合と地連との対立関係が被告組合の主張するような緊迫した状態にあったと認めることはできないし、本件各決議は、ストライキ等争議行為のごとき組合員の極めて高度の団結が要求される取組みとは異なり、単に地連に対する申入書への署名を被告組合組合員に対して求めるものに過ぎないから、右決議が、その性質上当然に反対の者でも従う義務を負うものとは認められない。

したがって、原告らの右行為が、被告組合の組合決議違反行為であるとは認められない。

被告は、原告らの右行為は、被告組合の団結維持を困難ならしめた行為であるから団結紊乱行為・統制違反行為に該当する旨主張するが、右認定のとおり、本件各決議が被告組合組合員に対し申入書への署名を義務づけるものとは認められないことに徴すれば、原告らの右行為が団結紊乱行為・統制違反行為であるとは到底認めることができない。

2  抗弁2、(一)、(2)の処分事由(統制違反行為―組合規約四一条三号)について

(一) 被告は、同年七月一一日、被告組合は、被告組合の団結維持強化方策の一環として、原告らに対し、署名活動サボタージュに対する自己批判及び今後は被告組合の方針に従う旨の誓約を求める旨決定し、原告らに対し、右自己批判書と誓約書を書くように求めたが、原告らは(ママ)、これに応じなかったのは統制違反行為に当たる旨主張する(右処分理由イ)。

右認定の事実によると、平成二年七月一一日、地連中央委員会が被告組合に対する権利停止処分を否決したこと、被告組合は、再び同様の処分が地連において決議されるおそれがあると判断して、同日、緊急執行委員会を開催したこと、その際、右執行委員会において、原告らに対し、被告組合の決議に従わなかったことにつき、今後は地連と闘うとの決意を示す自己批判書及び誓約書を求める決議がなされたこと、翌一二日、原告らは、山根分会長らから右決議がなされたことを知らされ、右自己批判書及び誓約書の提出を求められたが、原告加納は、「全自教の方針は守るが、今回の件は理解できない点もあるし、自分の件でも小幡執行委員と食い違いがあるから個人署名をするのを留保する。」と述べ、原告福畑は、「自己批判するようなことはしていない。加納さんと一言も口を利くなと言われたので、それはおかしいと意見を言っただけだ。」と述べて、いずれも自己批判書及び誓約書の提出を拒否したことを認めることができる。

しかして、被告組合が原告らに共通する処分事由として主張する原告らの報告と御礼文書送付に関わる発言行為及び前記署名留保行為は、前記認定説示のとおりいずれも組合決議違反あるいは統制違反行為とは認められないものであり、かつ、被告組合が原告ら個別の処分事由と主張する各行為についても、後記認定説示のとおり、統制違反行為等とは認められないことに徴すれば、原告らが被告組合の決議違反を理由として提出を求められた自己批判書及び誓約書の提出を拒絶したことをもって統制違反行為に当たると認めることは到底できない。

(二) 被告は、阪急分会は、会社との間において、習熟指導員の受審について、組合推薦制度を制定しているところ、原告らが、会社の山崎管理者らに対し、組合推薦を撤回された原告福畑に習熟指導員の審査を受けさせるよう執拗に要求したことは、被告組合の団結紊乱・統制違反に該当する行為である旨主張する(右処分理由ロ)。

右認定の事実によると、習熟指導員資格取得試験の受験に関し、阪急分会と会社との間において、会社が習熟指導員資格の付与を利用して組合を分断することを防ぐため、組合推薦制度を制定していること、原告福畑は、平成二年五月ころ、阪急分会から習熟指導員として推薦され、以後所定の手続に従って受審の準備に入り、同年六月中には数回の講習を受け、七月二日に学科審査を受けて合格したこと、ところが、阪急分会は、同月一〇日、原告福畑に対する習熟指導員の右推薦を取り消す旨の決定をし、右の旨を会社には通知したが、原告福畑には直接通告しなかったこと、原告福畑は、同月一二日に、会社の森川課長から右推薦取消の事実を知らされ、同日、山根分会長に抗議するとともに、翌一三日、原告福畑が会社に対し、練習を続けさせてほしい旨申し入れたが、結局のところ受け入れられず、さらに前記認定のとおり会社の山崎隆三副所長及び森川課長から、実技審査の受審を断念するように説得され、業務として実技審査を受審させることはできない旨告げられたが、同月一六日、原告福畑は、有給休暇を取得して実技審査を受審したことを認めることができる。

右の事実によると、確かに、阪急分会の推薦を取り消されたのに習熟指導員資格取得試験を受審(ママ)したことは、組合推薦制度に形式的には抵触する行為であるということはできる。しかし、右組合推薦制度は、会社が習熟指導員資格の付与を利用して組合を分断することを防ぐために制定されたものである一方、労働者の資格取得に関わるものであって、個人の利益に重大な影響を及ぼすものであることからすると、その運用は恣意的に行うことは許されず、一旦行った習熟指導員の推薦を取り消すには合理的理由が必要であると解するのが相当である。しかるに、右の事実によると、阪急分会が原告福畑の推薦を取り消したとしながら、会社にも原告福畑にも何らその理由を告げず、また、その理由は明らかでなく、原告福畑には推薦取消の事実すら告知しなかったこと、原告福畑は、阪急分会が推薦取消を決定した時には、学科試験に合格し、実技審査を残すばかりの段階であり、右時点で習熟指導員の実技審査の受審を断念すると、原告福畑がこれまでに受講した講習及び学科試験合格の結果が無駄になることに徴し、原告福畑が、会社に受審させるよう要求し、さらには有給休暇を取得して実技審査を受審したことを認めることができるところ、これらの原告福畑の行為を非難するのは相当でなく、これをもって団結紊乱・統制違反行為と評価することはできない。

被告は、原告加納も、山崎管理者及び森川課長に対し、審査を受けさせるよう執拗に要求したと主張し、(人証略)は右主張に沿った証言をするが、右証言は、(人証略)が直接経験したものでないばかりか、全く具体性に欠けるものであってにわかに信用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

3  抗弁2(二)の処分事由(統制違反行為―組合規約四一条三号)について

被告は、原告加納が小幡問題に端を発して分会の内部事情に関することを地連等には口外しない旨の誓約書を差し出す旨約束しながら、被告組合役員が示した案文に従った誓約書を書かなかったのは、分会の統制をことさらに乱そうとする団結紊乱行為である旨主張する。

右認定の事実によると、小幡委員長の原告加納に対する発言と原告加納のその後の発言に関し、小幡問題が発生し、被告組合が地連に対し、お願い文書を出すこととなったこと、阪急分会代議員会は、原告加納の小幡問題に関する発言が意図的でないなら、分会内部のことを口外しないことの誓約書を書かせて、そのままにすることとしたこと、平成二年三月二三日、山根分会長は、原告加納に対し、分会内部の個人の発言を今後口外しないとの誓約書を出すよう求めたところ、原告加納は、そのころ、これを了承する旨答えたこと、翌二四日、阪急分会集会において、中路書記次長から原告加納に右誓約書を書いてもらうこと、原告加納が被告組合のことを口外しないと言っているので、皆さんも信用して、団結してほしい旨報告したところ、右分会集会に出席していた者は右報告を了承したが、原告加納が書くこととなった誓約書の内容等については決議されることはなかったこと、同年四月二四日、中路書記次長は、原告加納に対し、右誓約書の中路案を示し、誓約書を書くよう求めたが、右案は、中路書記次長が独自に起案したものであること、原告加納は、同月二七日、誓約書を被告組合に提出したが、中路案の文言のうちいくつかを削除し、かつ、自己が小幡発言を福田委員長に報告したことが福田委員長に組合内部事情に関し事実誤認をもたらせたという趣旨の文章に、「分会役員によれば」という文言を挿入したこと(〈証拠略〉)、原告加納が中路案を右のように削除、訂正したのは、事実と異なると考えたことと原告加納が直接体験したことではない事項につき「阪急分会役員によれば」と伝聞表現にしたものであること、中路書記次長らは、右誓約書の内容に納得せず、原告加納に書き直しを要求したが、原告加納はこれに応じなかったことを認めることができる。

被告が原告加納の右行為を捉えて、阪急分会の統制をことさら乱そうとする団結紊乱行為であるとする点は、原告加納が中路案を一部削除し、「分会役員によれば」という文言を挿入したことであるところ、原告加納が誓約書において誓約を求められた行為は、被告組合の内部事情を地連など外部に口外しないことであり、原告加納が提出した誓約書は、中路案とほとんど同様の内容で記載されており、右求められた誓約の趣旨は十分に表現されているということができるほか、右誓約書の内容及び表現につき、阪急分会代議員会及び阪急分会集会において、特に注文が付けられるということもなく、また、原告加納が中路案に削除、訂正を加えた理由は、事実と異なると考えたことと原告加納が直接体験したことではない事項を「阪急分会役員によれば」と伝聞表現にしたものであったこと等前記認定の事実を総合勘案すると、原告加納の右誓約書の提出をもって積極的かつ意図的に被告組合の団結を侵害する行為ということはできず、これをもって分会の統制をことさらに乱そうとする団結紊乱行為であるとも到底認めることはできない。

4  以上のとおり、被告主張の本件権利制限処分の処分事由はいずれも認められない。

四  本件権利停止処分の処分事由の存否について

1  抗弁3、(一)、(1)の処分事由(組織原則違反行為―組合規約四一条一号、三号)について

被告は、原告らが被告組合の頭越しに地連の指導を求めるなどした行為をもって組合規約九条一号、二号に違反する旨主張する。

右認定の事実によると、原告らは、本件権利制限処分を受けた後、被告組合に右処分の撤回を求めるとともに、その処分理由等の説明を求めたが、納得のいく説明が得られなかったため、遂に自らが信頼する上部団体である地連の指導を求めるべく、その旨を被告組合に通知したうえ地連に赴き、事情を告げて被告組合に対する指導を求めたことを認めることができるが、抗弁3、(一)、(1)、ロの指導要請の事実は認めることはできない。

ところで、原告らの右行為が違反するという組合規約九条一号、二号は、抽象的な規定であり、同条一号所定の組合規約を精査するも、いかなる場合に上部団体である地連の指導を要請することを禁ずるものか明確な規定はなく、また、同条二号所定の組合のすべての決議と、これに基づく指令、指示がいかなるものであるかを特定して認定し得る資料もなく、さらに前記認定説示のとおり、本件権利制限処分が理由のないものであるにもかかわらず、これを撤回しないのみならず、その理由を明確に説明しないなど被告組合の取った対応に徴すると、原告らの右行為をもって非難されるべきものということはできない。

よって、原告らの右行為をもって組合規約九条一号、二号に違反し、同規約四一条一号、三号に該当するものということはできない。

2  抗弁3、(一)、(2)の処分事由(組合規約四一条一号、三号)について

被告は、原告らが、同年八月八日に開催された本件権利制限処分に関する説明会に出席するよう指示されたのに、正当な理由なくこれに参加しなかったことは、組合規約九条二号に違反する行為である旨主張する。

右認定の事実によると、原告らが被告組合の指示に反し、同月八日開催の説明会に出席しなかったこと、原告らが右説明会への(ママ)出席しなかった理由は、右説明会において処分が撤回される見込みはなく、また、権利制限処分により抗弁権も保障されないし、たとえ出席しても、参加者からつるし上げられることが予想されることであったこと、他方、同年七月二三日に中路書記次長から原告らに対しなされた処分理由の告知が多数の組合員が取り囲み、口々に原告らを非難する発言をする中で一五ないし二〇分間行われるというものであったことを認めることができる。

右の事実関係からすると、原告らが本件権利制限処分の理由開示を求めながら右説明会に出席しなかったことは、一応、被告組合の指示に反したといえなくもないが、前記認定の事実を総合勘案するとき、当時、被告組合は、原告らの言い分に耳を傾けて本件権利制限処分の当否を検討しようとの姿勢は全くなかったと認められること、原告らが右説明会に出席しても、参加者から単なる非難を受けるだけで終わることが予想されると考えたとしても無理からぬところがあったことなどの事情に徴すると、原告らが、右説明会に出席しなかったとしても、これを組合規約九条二号に反する違法な行為とは到底いうことはできない。

3  抗弁3、(二)の処分事由(組合規約四一条一号、三号)について

被告は、被告組合が組合員に対し、同年七月二七日、福田委員長が主催する事実調査に参加しないよう決議し、特に、原告加納に対し、右決議を遵守するように指示書を交付して右の旨を指示したのに、原告加納は、同年八月二日、福田委員長の求めに応じ、事実調査に証人として出頭したことは、組合規約九条一号、二号に違反する行為である旨主張する。

右認定の事実によると、原告加納は、中路書記次長から、右事実調査に応じないよう求められるとともに、その旨の被告組合執行委員会の決定があり、これを遵守するようにと記載した被告組合名義の指示書(〈証拠略〉)を交付されたが、右事実調査においてなされる調査は、原告加納がかかわっている小幡問題に関する事項であって、自らが右問題に関し、嘘を言っているとされているなど名誉に係わることであったので、右の指示に従わずに出席したことを認めることができ、右の事実と原告加納が右事実調査に出席した結果、被告組合が危惧したような問題が発生したことを認めるに足りる証拠はないことからすると、原告加納が右事実調査に出席したことをもって、処罰に値するほどの組合規約九条一号、二号に反する違法な行為であるとは到底いうことはできない。

4  抗弁3、(三)の処分事由(組合規約四一条一号)について

被告は、原告福畑が同年七月一六日に阪急分会の推薦のないまま、習熟指導員審査を個人的に受審したことは、組合規約九条二号に違反する行為である旨主張する。

右認定の事実によると、原告福畑は、同月一六日、阪急分会の推薦を取り消されたまま、有給休暇を取得して実技審査を受審したことを認めることはできるが、前記第二、三、2、(二)において認定説示した組合推薦制度の趣旨、習熟指導員審査の自動車教習所従業員における意義、阪急分会の原告福畑に対する推薦の取消しの経緯、右取消後の会社と原告福畑との対応及び原告福畑の右受審の態様等の事情を総合勘案すると、原告福畑の右受審をもって、組合規約九条二号に違反する行為であるとは到底いうことはできない。

5  以上のとおり、被旨主張の本件権利停止処分の処分事由はいずれも認められない。

五  以上の次第で、本件権利停止処分は、その前提となる本件権利制限処分の処分理由がなく、また、本件権利停止処分の処分理由もないので、その余の点について判断するまでもなく、いずれも無効というほかない。

(原告らの組合員としての権利行使の妨害排除請求について)

六  請求原因5(一)は当事者間に争いがなく、証拠(〈証拠・人証略〉)によると、原告らが、本件各処分後も、教習中の自動車を蹴りつけられたり、被告組合員に集団で取り囲まれ、身体に手をかけられて怒鳴りつけられ威嚇される等の暴行を受けたことを認めることができる。

右認定の事実によると、本件各処分前の行為中には原告らの被告組合員としての権利行使を妨げるものと認めることができる行為はあるものの、本件各処分後の行為中には右のような行為と認めるべき行為がないか、仮にあったとしても本件各処分の内容に徴し、それに従ってなされているものということもできなくはない。そして、本件権利停止処分が無効であることを確認する本件判決が確定した場合には、被告組合においてもこれに従って原告らの被告組合における組合員としての権利行使を認めるであろうことは容易に推認され、かえってこれを否定する資料もないし、原告らにおいても本件権利停止処分が無効であるとされた以上、被告組合に対し、その権利行使を求め、仮にこれを妨害する場合にはその排除を求めれば足りるというべきであって、それ以上に、現段階において、被告組合に対し、原告らの組合員としての権利行使を将来にわたり妨害しないよう求めることはできないし、これを命ずる必要性も認められない。

よって、原告らの組合員としての権利行使の妨害排除請求は理由がない。

第三結論

以上の次第で、原告らの本訴請求のうち、本件権利停止処分の無効確認請求はいずれも理由があるから認容し、本件権利制限処分の無効確認の訴えはいずれも訴えの利益を欠く不適法なものであるから却下し、その余の請求についてはいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 黒津英明 裁判官 太田敬司)

《被告組合規約》

第八条 何人も、人種、思想、宗教、信条、性別、社会的身分または、問(ママ)地によって組合員の資格を失われることなく、すべての平等の権利を有する。

1 本組合員のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱いを受ける権利

2 組合役員に対する選挙権、被選挙権、並びに罷免の請求権

3 本組合の会計を、随時閲覧する権利

4 組合の処分に対して抗弁する権利

5 その他、組合活動に基づく利益を享受する権利

第九条 組合員は、すべて次の義務を負う。

1 組合規約を守ること。

2 組合のすべての決議と、これに基づく指令、指示に従うこと。

(以下、省略)

第四一条 組合員は次の行為をした時は、処罰を受けるものとする。

1 規約、機関の決議に違反したとき。

2 組合の名誉を汚したとき。

3 組合の統制を乱したとき。

4 その他、前各号に準ずる行為をしたとき。

第四二条 処罰は、次の三種とする。

1 譴責、本人に反省を求めると共に、一般組合員に公示する。

2 権利停止、第八条に規定する権利の全部、または一部を一定の機関(ママ)停止する。

3 除名、本組合より除名する。

第四三条 処罰は原則として、査問委員会を経て、大会で決議されなければならない。

〈2〉 省略

第四四条 組合員が第四一条に違反し、組合機関の決定による反省を求めるもなお統制に従わず、複数又は集団的に反組合活動を行い、この組合の団結に重大な障害を与えるときは、規約三一条、四三条に定める手続によらず、中央委員会または大会によって代議員の過半数の賛成をもって規約四二条の処罰を確定することができる。

〈2〉 前項の場合、中央委員会または大会によって処罰を確定するまでの間緊急に防衛処置の必要あるときは、執行委員会の三分の二以上の賛成により権利制限(全面的、部分的)を含めた処置を講ずることができる。

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